聖 句「すでにお受けになった教えが確かであることを、あなたによくわかっていただきたいと思います。」 (ルカの福音書1:4)
説教題 「私たちの間で成し遂げられたことを」
聖 書 ルカの福音書1章1~4節
説教者 栗本高仁師
これまで出エジプト記から順番に見てきました。イエス様ご自身が「聖書(旧約聖書)は、わたしについて証しているものです」(ヨハネ5:39)とあるように、私たちは旧約聖書の中にイエス様ご自身を見てきました。今度は、このイエス様ご自身を、新約聖書のルカの福音書から見ていきます(旧約聖書を意識しながら)。
1)神が、イエスにおいて成し遂げたわざ
ルカの福音書には序文があります。そこで「何について」書こうとしているのかをはっきりとさせます。それは「私たちの間で成し遂げられた事柄について」です(1-2節)。
それでは「成し遂げられた事柄」とは何のことでしょうか。ルカは、そのことについては「多くの人がまとめて書き上げようとすでに試みて」いると言います(1-2節)。実はこのことばは、「物語に(ディエーゲーシス)まとめようと、…手を着けてまいりました」とも訳せます(聖書協会共同訳)。この「成し遂げられた事柄」は、ここまで「物語られて」きたのです。イエス様の「神があなたにしてくださったことを、話して聞かせない(ディエーゲオマイ)」(8:39)ということばに注目するとき、それは「神があなたにしてくださったこと」と言えるでしょう(「話して聞かせなさい」は「物語」と同じ語源のことば)。それは同時に「イエスが自分にしてくださったこと」でもありました(8:40)。
つまり、ルカがこれから語ろうとしているのは、「神が、イエスにおいて成し遂げたわざ」についての物語(=イエスの物語)です。
2)「私たちの間」で成し遂げられたこととして
ここで不思議に思うのは「私たちの間で」ということばです。この序文によると、ルカはイエス様を直接見た第一世代の弟子たちではなかったようです。彼は「初めからの目撃者で、みことばに仕える者となった人たち」(1-2節)から伝え聞いたのです。さらに、彼は福音書記者の中で唯一異邦人でした。パウロの言葉をかりるなら「イスラエルの民から除外され、約束の契約については他国人で」あった人物です(エペソ2:12)。そのような直接イエスを見ていない、異邦人である者が、どうして「私たちの間で成し遂げられた事柄」と言えるのでしょうか。
ルカは、使徒パウロと伝道旅行を共にした人物でした。おそらくパウロによってイエスを信じる者に導かれたのでしょう。そして、パウロたち第一世代からイエスの物語を聞くことを通して、彼も神の力強いわざを体験したのではないでしょうか。つまり、「私たちの間で成し遂げられた事柄」というのは、まさにルカの「信仰の告白」なのです。
私たちはこのイエスの物語をどのように聞くでしょうか。単なる「昔の、他の人たちの間で」成就した物語としてでしょうか。それとも「今の、私たちの間」で成し遂げられたこととしてでしょうか。
3)その確かさを知るために
この序文の最後で、ルカは「何のために」書くのかを明らかにします。
彼は本書を「尊敬するテオフィロ様(おそらくローマの高官)」のために書いています(3節)。それは、テオフィロがすでに受けた教えが「確かであること」を彼自身に分かってもらうためです(4節)。そのために、ルカは「すべてのことを初めから綿密に調べ」、「順序立てて書」こうとします(3節)。ここに、歴史家ルカの姿を見ることができます。彼は、このイエスの物語が確かに人間の歴史の中で起きた出来事として、丁寧に調べ、整理して物語るのです。
しかし、この読者はテオフィロ(『神を愛する者』という意味)だけではないでしょう。すべての「神を愛する者」たちにルカは語っているのではないでしょうか。この物語を聞くものが、このイエスの物語の確かさを知っていくことを期待しつつ。
どうぞ私たちも、このイエスの物語を、確かに「私たちの間で」成し遂げられた神のわざとして、聞いていこうではないでしょうか。