金言
「平和をつくる者(ピースメイカー)は幸いです。その人たちは神の子どもと呼ばれるからです。」(マタイ5:9)

説教題 「平和をつくる者」
聖 書 マタイの福音書5:9
説教者 井上賛子師

「平和を実現する人々は、幸いである。その人たちは神の子と呼ばれる。」
新共同訳
「パクス・ロマーナ」という言葉がある。「ローマによる平和」という意味。ローマ帝国の支配によって約200年もの長きにわたり続いた平和な時代を指す。これを確立したのは皇帝アウグストゥス。イエス様がお生まれになった時に、人口調査の勅令を出したとされるあのアウグストゥス。彼がそれまでの長い内戦に勝利して、ローマの初代皇帝となったことにより、ローマの支配地域の地中海沿岸全体に平和がもたらされた。ローマ皇帝は、「平和を造り出す者」と呼ばれていた。そして自らを「神の子」と呼ばせていた。

1.神との平和  ~キリストのお陰で、神の前に安心して立つことができる~

「あなたがたも、かつては神から離れ、敵意を抱き、悪い行いの中にありましたが、今は、神が御子の肉のからだにおいて、その死によって、あなたがたをご自分と和解させてくださいました。」(コロサイ1:21~22)「神に敵対していていました」(聖書協会共同訳)そのような私たちが、「私たちは信仰によって義と認められたので、私たちの主イエス・キリストによって、神との平和を持っています。」(ローマ5:1)
 イエス様の十字架の死と復活によって神様が私たちの罪を赦し、義として下さった、そのことを信じる信仰によって私たちは神の前に平和に安心して立つことができるようになった。
 聖書協会共同訳では「このキリストのお陰で、今の恵みに信仰によって導き入れられ」(ローマ5:2)と訳す。「お陰で、お陰様で」というのは日本語における大事な表現であり、感謝を表す言葉である。私たちは、イエス様のお陰で、神様との平和を与えられ、神の前に安心して立つことが出来るようになった。イエス様こそ、神様と私たちの間に平和を実現する者、ピースメイカーである。

2.人との平和

「実に、キリストこそ私たちの平和です。キリストは私たち二つのものを一つにし、ご自分の肉において、隔ての壁である敵意を打ち壊し、~こうしてキリストは、この二つをご自分において新しい一人の人に造り上げて平和を実現し、二つのものを一つのからだとして、十字架によって神と和解させ、敵意を十字架によって滅ばされました。」(エペソ2:14~16)。
ユダヤ人の強烈な選民意識と、そのしるしである割礼。彼らは、ユダヤ人でない人々を「異邦人」、「割礼のない者」と呼んで蔑んでいた。彼らと異邦人の間には絶えず「敵意という隔ての壁」があった。当時のエルサレムの神殿にはユダヤ人と異邦人を仕切る「隔ての壁」があった。また私たちの間にも、無数の様々な「敵意という隔ての壁」がある。心の中に様々な壁を築いてしまう。肌の色の違いや国籍、民族、宗教の違い、あるいは自分とは違う考えや主義主張などに直面する時、私たちは心に敵意の壁を築く。イエス様はその壁を取り壊し、敵意を滅ぼして下さるのです。それによって、対立し敵対する人間どうしの間に、平和を実現して下さる。

3.平和を実現する人々 新共同訳  ~一隅を照らす生き方~

アフガニスタンにゆかりの深い一人のクリスチャン中村哲医師。2019年12月、中村さんはアフガニスタンで銃撃を受けて亡くなる。パキスタンのペシャワールに医師として赴任し、難民のための医療活動に従事して以降、パキスタンとアフガニスタンにおいて様々な人道支援活動に尽力した。 特に2003年以降はアフガニスタンの深刻な水不足を解消し、人々の命の守り生活を確保するため、井戸や用水路の建設に心血を注ぐ。「100の診療所より1本の用水路を」。現地の人々の協力の下に掘った井戸は約1600本、開通した灌漑用水路の長さは27キロに及ぶ。砂漠化していた農地は緑豊かな田畑へと生まれ変わる。中村さんはクリスチャンであったが、自分の信仰や考え方を押し付けることなく、その地域の人々の価値観や考え方、文化や生活習慣を尊重し、国籍や宗教を超えて深い信頼関係を築く。「同じ一人の人間として」互いを尊重しあう精神。自分の足元からより良い社会、平和が実現していく。天台宗をひらいた最澄の言葉で、「一隅を照らす」と言う言葉をよく使われた。「自分が今いる場所で最善を尽くすことが、隣人や世界をよくすることができる」と言う意。中村さんは人間ができる限界と向き合い、何もできないと諦めるのではなく自分が置かれた場所で最善を尽くした。私たちも自分のおかれた場所で平和を実現していこう。